『本当に頭のいい子を育てる世界標準の勉強法』(茂木健一郎著、PHP新書) 探求学習すれば地頭がいい子が育ち、受験にも役立つ

自分の子どもを頭のいい子に育てたい、多くの親にとって願いの一つ。

今回取り上げる『本当に頭のいい子を育てる世界標準の勉強法(以下、世界標準の勉強法)』(PHP新書)は、その願いに対して一つの答えを提示している。

著者は、脳科学者である茂木健一郎さん。茂木さんは脳科学者であると同時に、数々の教育論の本を出版している。

探求学習こそが世界標準の勉強法

茂木さんがこの本で強く訴えているのは、地頭のいい子は、受験勉強も含め飛躍的に伸びるということだ。

「探求学習により、自分の頭で考える力や問題を探求する力である『地頭力の基礎』ができ、伸びしろができる。そのうえで受験勉強すると、受験的な学力が伸びるスピードが加速される」(本書より引用)

ここで出てきたキーワード「探求学習」こそ、茂木さんが主張する「世界標準の勉強法」である。

「探求学習は、来るべきAI時代に備えるために必要な勉強法であるだけではなく、いわゆる旧来のエリート校といわれる大学の入試を突破するためにも有効な勉強法である」(本書より引用)

AI(人工知能)の時代になれば、知識量と記憶力でエリートを決めていたことが無意味になり、自分の頭で考え、自分で判断する力が大事になると、よく言われる。

この説明はよく聞かれる解説なのだが、実は多くの親を納得させてはくれない。多くの親は「ご説ごもっとも。しかし、まずは、自分の子どもを有名中学、有名高校、有名大学に入れておきたい」と思ってしまう。まずは暗記中心の受験を終えてから、自分で判断する力を養っても遅くないと考える親もいるはず。

茂木さんは、そういった現状肯定型の親たちに勇気を与えてくれる。なぜなら、来るべきAI時代に通用する勉強法であると同時に、有名校に受かるための勉強法としても、探求学習は有効だと主張しているからだ。

では、茂木さんが言う「探求学習」とは何か。

「探求学習とは、『能動的な学習』『答えを導き出すための力をつける学習』と定義づけられます」(本書より引用)

茂木さんは、探求学習の好例として、京都市立堀川高校の事例を取り上げている。2002年に、前年度6人だった国公立大学現役合格者が106人、18倍に増えた学校だ。「堀川の奇跡」として全国的にも有名になった。


探求学習が至上最強のオールマイティ勉強法

「堀川の奇跡」はなぜ起きたのか。

堀川高校で教職員たちによる教育改革が行われ、「探究科」が設置されたのが、すべの始まりだった。生徒たちは、1年前期から探求授業にそって、探求を行い、2年前期の半年間をかけて論文を完成させる。その課程で、学外の専門家の話を聞いたり、自分で調べたり、実験を重ねる。

茂木さんは堀川高校の女子生徒のコメントを紹介している。

「探求学習に取り組んでからは、勉強の仕方が変わりました。今まではただ教科書を読んで知識を吸収していくだけだったんですけど、ある事柄がわからなかったら、調べてさらに深く追求するようになった。そうすると、受験勉強もただ知識を詰め込むだけの味気ないものじゃなく思えてきて、楽しく勉強できるようになりました」(本書より引用)

「受験勉強も楽しくなりました」というコメントは、探求学習が生徒の好奇心を旺盛にし、受験勉強でもモチベーションを高めることができたことを示している。

そして、「超進学校ほど受験テクニックは教えない」と指摘。灘校では、中勘助の『銀の匙(さじ)』を3年間かけて読み上げる国語の授業や、折り紙を利用して古代ギリシャの作図不可能問題を解く数学の授業を行っていると紹介している。

本の後半では、「本当に頭のいい子」の親が家庭でやっていること、「超地頭力」を鍛える5つの習慣など実践例を示している。興味そそられるテーマだが、ここで押さえておきたのは、茂木さんの言葉を借りれば「探求学習が史上最強のオールマイティ勉強法」であるということだ。

そして、STEAM教育こそ探求学習であると、文部科学省も定義し、新学習指導要領の中でSTEAM教育を教育の柱に置くことを決めている。

(ジャーナリスト、ほき しもと)