『「家族の幸せ」の経済学―データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(山口慎太郎著、光文社新書)

著者は冒頭にクイズを出している。下記のアドバイスで間違っているのはどれか?

  ❏ 帝王切開なんてダメ、あんなの本当のお産じゃない。落ち着きのない子に育ちますよ」

  ❏ 赤ちゃんには母乳が一番。お母さんの愛情を受けて育つから、頭もよくなるんだよ」

  ❏ 子どもが3歳になるまでは、お母さんがつきっきりで子育てしないとダメ。昔から、“三つ子の魂百まで”っていうでしょう」

(本書より引用)


この3つのアドバイスはすべて間違っている、というのが正解。著者によれば、近年の経済学の研究は、ここに挙げた3つのアドバイスがすべて間違いであることを示している。ここで言う「近年の経済学」とは、本の副題にもある通り、「データ分析」である。

本書の著者は、東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授で、計量分析の専門家。家族や労働を分析する経済学者であるが、その特徴はデータを用いて“本当のこと”を明らかにしていくことだ。

この本は、週刊ダイヤモンドが主催する「経済学者・経営学者・エコノミスト107人が選んだ 2019年『ベスト経済書』」の第1位に選ばれた。また、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動に贈られる「サントリー学芸賞」も受賞している。

学者や経済などの専門家が選んだ東大の先生の本となれば、なんだか難しい本かと思われがちだが、著者自身のパパとしての体験もまじえた読みやすい本だ。

目次を見れば、誰もが読みたくなるテーマが並ぶ。第1章だけ紹介すると次のようになるが、読書欲をかき立てられる。

第1章――結婚の経済学

1 人々は結婚に何を求めているのか

2 どうやって出会い、どんな人と結婚するのか

3 マッチングサイトが明らかにした結婚のリアル

第2章――赤ちゃんの経済学

第3章――育休の経済学

第4章――イクメンの経済学

第5章――保育園の経済学

第6章――離婚の経済学

著者は冒頭にクイズを出している。下記のアドバイスで間違っているのはどれか?

  ❏ 帝王切開なんてダメ、あんなの本当のお産じゃない。落ち着きのない子に育ちますよ」

  ❏ 赤ちゃんには母乳が一番。お母さんの愛情を受けて育つから、頭もよくなるんだよ」

  ❏ 子どもが3歳になるまでは、お母さんがつきっきりで子育てしないとダメ。昔から、“三つ子の魂百まで”っていうでしょう」

(本書より引用)


この3つのアドバイスはすべて間違っている、というのが正解。著者によれば、近年の経済学の研究は、ここに挙げた3つのアドバイスがすべて間違いであることを示している。ここで言う「近年の経済学」とは、本の副題にもある通り、「データ分析」である。

本書の著者は、東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授で、計量分析の専門家。家族や労働を分析する経済学者であるが、その特徴はデータを用いて“本当のこと”を明らかにしていくことだ。

この本は、週刊ダイヤモンドが主催する「経済学者・経営学者・エコノミスト107人が選んだ 2019年『ベスト経済書』」の第1位に選ばれた。また、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動に贈られる「サントリー学芸賞」も受賞している。

学者や経済などの専門家が選んだ東大の先生の本となれば、なんだか難しい本かと思われがちだが、著者自身のパパとしての体験もまじえた読みやすい本だ。

目次を見れば、誰もが読みたくなるテーマが並ぶ。第1章だけ紹介すると次のようになるが、読書欲をかき立てられる。

第1章――結婚の経済学

1 人々は結婚に何を求めているのか

2 どうやって出会い、どんな人と結婚するのか

3 マッチングサイトが明らかにした結婚のリアル

第2章――赤ちゃんの経済学

第3章――育休の経済学

第4章――イクメンの経済学

第5章――保育園の経済学

STEAM THE MEDIAが気になるのは、第5章だ。

幼児教育について、いくつかわかったことがある。

◆「ペリー就学前プロジェクト」と呼ばれる長期調査で、米国の貧しいアフリカ系米国人の児童に教育を受けさせ、40歳になるまで追跡調査したところ、所得の増加や、犯罪率の低下など、社会にプラスの効果をもたらした。

◆日本のデータを用いた研究からは、保育園に通うことで、言語の発達が促されるだけではなく、攻撃性や多動性の減少が見られる。また、母親のしつけの質が向上し、ストレスが低下し、幸福度が上がる。

保育園時代の集団生活によって子どもが大人になっても周囲との協調をとれるようになるという結果は注目すべきだ。

知能はどうか。上記の「ペリー就学前プロジェクト」の調査を踏まえて、著者は次のように書いている。


「5歳時点で評価した知能指数、学力テストの点数は軒並み大幅に上がっていますし、情緒面で見ても、勤勉さが改善されました。しかし、知能面に対する効果は、8歳時点でほぼ消えてしまいました。(中略)残念ながら、いっときの勉強で、長い期間にわたって頭の良さを保ち続けられるというような、うまい話はないようです」

(本書より引用)


保育園時代に「知能」を向上させても長続きはしないという結論になっている。だが、言葉の定義が違うのか、「ペリー就学前プロジェクト」を実施したノーベル賞経済学者、ジェームズ・ヘックマンシカゴ大学特別教授の生の声を読むと、とらえ方がまったく異なる。

日経ビジネスのインタビューに答えているヘックマン教授は次のように語っている。


「幼児期にこうした教育的介入をした人たちの追跡調査を続けて分かったことは、幼少期にきちんと教育的な介入を受けていれば、30代になった時のIQが平均してより高くなり、その後も高いままであり続けるということでした」

(日経ビジネスから引用)

これは、米国で行われた「アベセダリアン・プロジェクト」という別の長期調査から導き出された結論。違う調査とはいえ、ヘックマン教授は、幼児教育が成年になってからのIQにも大きな影響を及ぼしているとの見解だ。

山口先生とヘックマン教授との主張の差はなぜ生まれたのか。対象とした長期調査が違うからか。言葉の定義が違うのか、解釈の違いなのか、判然としない。山口先生は「勉強はやり続けなければ、頭の良さは早晩衰えてしますのでしょう」とも語っているため、山口先生が言うところの「知能」とは「学力」のことかもしれない。いつか、ご本人に伺いたい。

ヘックマン教授は「幼児期ならIQを高められる」とも語っているが、IQの高さを重要視しているわけでもない。


「IQが示すようなテストを解く能力は、人生の諸問題を解決する能力と同じではありません。現実に直面する試練は、多くの異なる特徴を合わせ持っているからです。だからこそそこで、IQでは測れない忍耐強さや自己抑制力、良心が重要な役割を果たすのです」

(日経ビジネスから引用)


ヘックマン教授の論点については、次回、ヘックマン氏の著書『幼児教育の経済学』を題材にさらに議論を深め、このコラムを読んでおられる皆様のモヤモヤを少しは晴らしたい。

(ジャーナリスト、ほき しもと)