TED Talks は多くの方がご存じでしょう。世界の知性が語る講演を無料の動画で見ることができる。「ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」を共有していこうというTEDの考えに共鳴する世界の著名人が短時間のスピーチを公開している。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏やグーグルの創業者ラリー・ペイジ氏など、滅多に会えない著名人の肉声を聞くことができる。そのスピーチは、多くの協力者のおかげで、日本語の字幕で理解することもできる。アプリも、公式アプリの「TED」のほか、動画のスピードを調整できて字幕表示もできる「TEDiSUB」などさまざまなものがある。英語学習に役立つアプリにもなっている。
書籍もたくさん出ている。『TEDトーク 世界最高のプレゼン術』(ジェレミー・ドノバン 著)、『TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則』(カーマイン・ガロ著)などいろいろ。
そこで、このコラムのシリーズでは、TED Talksの中から教育に役立つスピーチをお届けしていく。
第一回目は、『やり抜く力 GRIT(グリット)』(ダイヤモンド社)の著者であるアンジェラ・ダックワース(Angela Lee Duckworth)氏の「Grit: The power of passion and perseverance」をご紹介する。
GRIT、やり抜く力の大事さを発見
TEDのサイトに飛べば、ご本人の肉声も聞けるし、トランスクリプト(筆記録)も掲載されているので、このシリーズでは、そこで語られる内容は最小限にとどめ、テーマや内容の意義について説明していく。
IQは優秀さんを測る尺度ではない
ダックワース氏は、ニューヨークの公立中学校の1年生に数学を教えた経験を踏まえて、次のように語ります。
「衝撃を受けたのは、IQだけが優等生と劣等生の違いではなかったことです。成績がとてもよかった生徒でもIQが高くない子がいました。頭がすごくよくても成績のよくない子もいました」
学校の教師を辞めて大学で心理学の研究を始めたダックワース氏は「ある一つの特徴が成功を左右していました。それは、社会的知性でもなく、見た目でもなく身体的健康でもなく、IQでもありませんでした。GRIT、やり抜く力です」。
GRITは、度胸(Guts)、復元力(Resilience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)の4つの言葉の頭文字を並べた言葉です。その4つの言葉を総称して「やり抜く力」と訳しています。
「やり抜く力とは、超長期目標に向けた情熱や忍耐力で、スタミナがあることでもあります」
教育界のIQ至上主義に対して、人生の成功はIQからは得られないと明確に言った彼女の宣言は、非IQの大事さ、すなわち非認知能力の大事さを教えたのです。
やり抜く力は、成長思考で決まる
ダックワース氏は、TEDの中で、どうしたらタフな情熱や忍耐力を持っているのかについて結論を出していませんが、「成長思考がポイントになる」と言及しています。
「これまで聞いた中で子どものやり抜く力を育てるのに一番よいのは『成長思考』と呼ばれるものです」
成長思考の大事さを提唱したのは、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・ドゥエック氏(Carol Dweck)です。ドゥエック教授は、マインドセット(心の持ち様)は、「成長思考」と「固定思考」があると言っています。成長思考だと「自分の能力は努力によって改善していける」と考え、固定思考だと「自分の才能、資質、性格は持って生まれたもので、変えることはできない」と考えます。
成長思考を育むには、幼少期のほめ方が大事だとも言います。
「〇〇ちゃんはほんとに頭がいいね」
この言い方は、よく使う定番のフレーズですが、これはダメだそうです。ドゥエック教授によれば、「能力」をほめると、子どもは固定思考型に陥り、「努力やプロセス」を具体的にほめると成長思考型になっていきます。
子どもたちが成長思考になれるようなほめ方、そこがポイントになっているのです。
(STEAM THE MEDIA発行人、龍芳乃)
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